立志伝物語 (旅立ち)(小説)立 志 伝 物 語 (旅立ち)( 小説 ) 丘に登ったときの快感が、今も思い出された。 春とはいえ丘の上には肌寒い風が舞っている。 男は、その風に吹かれ凛として我が家の方向を見つめていた。 純朴そうな男だ。風体は、痩せ型で頭髪はやや短め。 顔色は日に焼けている。背丈は170は超えているだろう。 ひと目で若いことは誰にもわかる。姿勢は極めてよい。 長袖の白シャツに黒の皮ベルト、茶色のズボン、 肩いっぱいにリユックを背負っている。 男は今この丘へ登って来たばかりだった。 ところがこの男、心安らかな深呼吸を一度しただけで、 その場からいっこうに動く気配はない。 この男の眼差しは一直線にはるかな 田園風景の中の我が家に注がれていた。 少し汗もかいたのだろう。 右手人差し指と中指で眉の上の汗をぬぐった。 少し疲れたのだろうか、そばにある中木に 手をかけたが、眼差しだけは変わらなかった。 心の中でこの男、これから自分の進むべき道に 直面し前途が少し不安なのかもしれなかった。 遠くの我が家を見つめる男は、長男であるそうな。 我が家には、母と妹と弟がいる。 父は、2年前になくなっているそうな。 この男の心の中は、自我を奮起させる やる気にみちあふれていた。 何分くらいたっただろうか。 肌寒い風も忘れて見つめていた男の目から、 一筋の涙がこぼれおちた。 男は、自分が育まれた故里の美しい自然と 別れることが淋しかったのだ。 男は、涙をふくこともせず流れそうままにしていた。 それが、自分にとっての真の心の姿だといっているように。 はいストップ 人生の結節には、旅立ちの日があるものですね。 あなたの旅立ちは、いかがでしたか? これからは、あなたの想像でこの男を動かして下さいね。 |